「仙人谷の響き」

仙人温泉小屋スタッフ  小 森 武 夫

7月下旬、下界では既に夏真っ盛り! 仙人谷はと言うと、 ドドドォーーーーーン、ズズゥーーーン!!雪 渓が崩れる音が、仙人谷に響き渡る。
寒い冬の間中積った雪が融け出して、いよいよ夏山シーズン到来 だ!
風が谷を渡り、鳥が囀り、樹々が萌え出し、あらゆる命が躍動し始 める。
 仙人温泉小屋も主人(高橋仙人)を筆頭にスタッフも小屋入りし、お客様を迎える準備を開始する。小屋の準備とともに登山者が安全に歩るけるように、登山道整備も 併行して行うのである。
 登山道整備は、登山者の安全を確保するためには、道の脇の雑草を広く刈り込み、荒れた道を削り、歩き易くした方が良いのだが、一方では道を良く整備すると言うことはそれだけ自然破壊をしてしまうと言うジレンマがある。登山道整備は 『必要最小限の整備で、且つ安全に』がテーマだ!
 此処で登山道について一考、最近は、老若男女様々な方が登山をされる、特に高齢の方が多くなっているため、道は判り易く、尚且つ浮石等による事故を少なくするため、細心の注意を払って整備をするように心掛けている。 小生も長年北アルプスの山々を歩き、整備された道・道標・ペンキマ ーク等にどれ程お世話になったことか、そこで、その恩返しと登山者の安全登山の一助になればと微力ではあるが整備にあたっている。
登山道整備は、主に道を覆う雑草刈りと、浮石の除去、崩れた道の土をを削ったり盛ったりし、歩き易くする作業である。草刈は、冬の間中雪渓の下で養分を蓄え、雪融けとともに、一斉に爆発するが如くぐんぐんと成長する雑草を刈るのである。その成長たるや物凄い勢いで、放っておくとたちまち仙人谷は草の海と化し、登山道は覆い尽くされてしまう、スカンポ(イタドリ)などは、直径3〜4cm程の太さになり、高さは2m、いや3mにも及ぶのだ!
 さて、是からが小生の出番、!ヨーーーシッ!一丁やってやるか!  その出で立ちは繋ぎ作業服・腰ベルトには ノコギリを差し、片手に ツルハシ、もう一方には金梃子(かなてこ)注1といったスタイル!  (弁慶の『七つ道具』ならぬ、登山道整備の『三種の神器』である)  とてもカワイコチャンには見せられた姿ではない!
 朝、お客様が出立された後、小生のガソリンとも言うべき、アサヒスーパードライを「プシューーッ!」、富山の酒「銀盤」をトクトクトクッ!と補給し、仙人が腕を振るった朝食を頂き「いざ!出陣!」、作業開始だッ!
 背丈よりも伸びたスカンポをバッサリ、返す刃で『根曲がり竹』をチョキン、切っては投げ、切っては投げ、バッサバッサ!「♪♪イェェーー ーイッ我こそは・・・・・♪♪」(気取って歌舞伎調に!)なんて悠長なことは言っていられない、汗と泥まみれになっての悪戦苦闘である。
 そのような中にも小生なりの美学があり、バッサバッサ刈っている時でもシラネアオイ、エンレイソウ・・・・等、可憐な花を見つけた時は、周辺の草も合わせそっと残すよう心掛けている。
昨年整備した道も、冬の間中雪に埋もれ、石は浮き、道は崩壊し、ズタズタとなってしまっている!一からのやり直しだ!
時には、登山道の上部に畳半畳ほどの大きな岩が露岩となり、今にも落ちそうになっていることがある。もしそれが崩れて登山者を直撃しようものなら一巻の終わりである。そのような場合は、金梃子を持って滑落しないように足場を確保し、上に回り込み、その岩を力任せに谷底に落とす。 すると「ゴロゴロゴローーーォッ!」と轟音を発し、斜面を落ち、最後は雪渓の上に「ズズズゥ〜〜ンッ!」 豪快な大音響と地響きは爽快である。
そのような悪戦苦闘の繰り返しの末、仙人谷にトレースが拓けて行く、夕暮れが近くなるころには今日一日の疲れを感じつつも、心は達成感に満ち溢れて仙人温泉小屋へと帰途に着くのである。
 道すがら、遠くを望むと、そこには後立山連峰の白馬岳から唐松岳が秀麗な山容を現している。 そんな時が、仙人谷の大自然の中に抱かれていることの幸せを感じる至福ののひと時だ!

 仙人温泉小屋周辺の登山道は、仙人池ヒュッテ方面のルートと、阿曽原温泉へ向かう雲切り新道ルートとがある。 (お客様は、仙人池ヒュッテから来て、阿曽原温泉へ向かう人が殆んどである。) 雲切り新道のルートは、小屋を後にして、暫く行くと仙人谷への斜面をジグザグに下る。  仙人谷には7月中〜下旬頃丸木橋が掛かるので、それを渡り対岸の急登をチョット登ると、右手上部に温泉の源泉が噴気を昇らせている。そこから対岸に仙人温泉小屋を望みながらトラバース気味の登山道を、進むとチョット広い平らな場所に着く、そこが『小屋のぞき』でブナが2本屹立している。その樹間から仙人温泉小屋を望むことが出来る。
その『小屋のぞき』を過ぎて右手に屈曲すると、仙人温泉小屋は視界から消える。
仙人温泉小屋からそこまで、20分から30分、スタッフがお客様の姿を目で追って、小屋のぞきの周辺に近づくと、手を振りお別れの合図を送る。
お客様も呼応して手を振る。遠くて声は届かないが、阿吽の呼吸だ!  ピイイィーーーーーーーーーーッ!!その笛の音が、仙人谷に響き渡り、お客様とスタッフの心に何時までも何時までもその響きが残るのであった。
 行く先の道中、お気をつけて! また何時か、お客様が再来されることを、心よりお待ち致しております。ありがとう御座いました。
 響きの余韻を残しつつ、お客様の影が『小屋のぞき』の向こうに消えて行くのであった。 

(注1.)金梃子(かなてこ)はバールの大きな物で岩を動かす時などに使用します。

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