「穂高岳ジャンダルムのエンジェル」

Chokomaka・小森武夫

ここは、奥穂高岳のジャンダルムの頂上、3163m、多くの人が奥穂高岳から南西に派生する稜線上に毅然と聳える岩峰、ジャンダルムに憧れたことだろう!そこに、赤く錆びた小さなエンジェルが情けなさそうに置かれている。
 それは、無残にも支柱が取れてしまった、嘆かわしいエンジェルだった。
 考えて見ると、あれは、2004年(平成16年)8月21日に、西穂高山荘から、奥穂高岳への稜線を辿って、持って行ったものだった。
 『そうか!あれから10年の歳月が過ぎたのか、錆びるのも無理ないなッ』
それより以前に遡ると、ジャンダルムの頂上には、道標らしきものは何も無く、石に「ジャン・・」と、かすかに読み取れる程度の文字が残っていただけだった。

 「10年ひと昔」と、よく言われるが、正に「昔」なのだ、その間、色々な山行を経験し、その一つひとつにドラマがあり、思い出が残っている。 多くの人に出会い、多くの感動を得て来た。
 思い返せば、あれから北アルプスの山々をよく登ったものだ。心に残る「剣岳北方稜線」、終日ドシャ降りの山行だった。
 池の平小屋で、お世話になり、朝、降りしきる雨の中を出発したのだった。しかし、この山行が後の私の人生に大きな影響を与えるとは、その時は予想すらしなかった。 

 その翌年、室堂から、真砂沢・仙人峠・仙人温泉小屋・祖母谷温泉そして清水尾根を白馬に登る計画で入山した。真砂沢を出発して、順調に飛ばし、今日は、祖母谷温泉泊の予定だ!
 9:00時頃、仙人谷温泉小屋近くに差し掛かると「シャリッ!シャリッ!」と軽快に草を刈る音とともに、!なんと、昨年池の平小屋でお世話になったKさんが居るではないか 『ヨォーーッ!』 、『イヤァーッ!昨年はお世話になりました。』 その後は、計画変更して、仙人温泉小屋で、終日呑み続け楽しいひと時を過ごしたことは言うまでもない。その際、高橋仙人から『来年、小屋開けなど、一緒にやらないか!』と言うお誘いがあったのだった。
「縁は異なもの」とは、正にこのような事を言うのであろう! それ以来、仙人温泉小屋にお世話になっているのである。 

 話は変って、昨年、仙人温泉小屋でスタッフとして働いて居る時のこと、あるお客様の話題で、奥穂高岳の「ジャンダルムのエンジェル」が、最近評判になっており、「パワースポット」などと評されているとのことだった。
 下山して、Webで、「ジャンダルムのエンジェル」or「ジャンダルムの天使」で、アクセスしてみると、大勢の方々が、ジャンダルムに登頂した、山行記録が、掲載されていた。
それらにアクセスして見ると、昨年、2013年(平成25年)の9月下旬以降の写真には支柱の無いエンジェルが無残にも岩の上に置かれて居た。
 時系列的に分析してみたところ、概ね、昨年の9月中旬頃に何らかの原因で、支柱が取れてしまった様子である。このままではいけない!
 ヨシッ!二代目を作ろう!! と、言うことと成ったのである。
 まず、金属板探しからスタート、しかし、いざッと言うと、なかなか見つからないものである。 ホームセンターなどに行って見たが、思に叶うようなものは無かった。 そのような時に、自宅にオーブントースターの受け皿があったので、とりあえず、それで作って見る事にした。
 次は、デザイン、初代のエンジェルの形を踏襲するように心掛けて絵を描いた。
 その絵を切り抜き、鉄板に貼り付ける、そして、白ペンキを吹き付けると言う一連の作業が終わると、オオオーーーッ!黒い鉄板にかわいいエンジェルが浮かび上がった。
さて、ここからが本番だッ! サンダー・電気ドリル・ヤスリを駆使して、『バリバリバリーッ ・ ガァガガァーーッ ・ ギィーーコ!ギィーコッ!』 金属板探しに始まり、画家・切絵師・そして今度は、板金屋!! 悪戦苦闘の末、ヤットコ サットコ!エンジェルが完成した。 しかし、鉄板が薄いことと、鉄製なのですぐ錆びてしまう恐れがある点が、満足できなかった。 

このまま、ジャンダルムに持って行くには、物足りないなッ! 
 設置するからには将来に禍根を残すようでは、折角の苦労が水の泡になってしまう!どうせなら、しっかりとした、長年の風雨に耐えられるものが作りたい! 
 世の中、『捨てる神アリャ 拾う神あり』 なんと!兄の家に行き、エンジェルの話をしたところ、ステンレス板があると言うではないか、大きさも、厚さも申し分ない代物だった。 その上、支柱にするステンレス製の棒も手に入るとのこと、願ったり叶ったりだッ!
 早速、第二作目作成に取り掛かった、一作目のノウハウがあるので、スムーズ行くと思いきや、さにあらん! “そうは問屋が卸ろさねェ!” ステンレス製で硬いことと、厚みがあるため、なかなか手強い、電気ドリルの歯は折れるは、サンダーで削るのも一筋縄には行かない、苦労に苦労を重ねて、ヤット!二作目のエンジェルが出来上がった。
 ウウウゥーーーームッ!我ながらなかなかの出来だッ! “自画自賛”、それから、知り合いの鉄工所で、エンジェルと支柱を溶接して頂いた。
 !完成! と、思いきや、まだ喜ぶのはまだ早い!
 出来上がった物は、ステンレス製なので、錆びることは無いが、余りにもピッカピカ過ぎて、ジャンダルムのピークにはチョットそぐわない!
 そこで、黒のつや消しスプレーペンキを吹きつけて “渋いエンジェル”の出来上がりと成った。  “ イヨッ 渋いゼッ 二代目ッ!! “
 
 <エピローグ>
 ひょんなことから始まった、「二代目ジャンダルムのエンジェル」の作成顛末記である。
 何時の日か、ジャンダルムに登頂した方々に、「感動」と「思い出の1ページ」とならんことを心から祈念る次第である。

 <ことば>
  ・ジャンダルム:主峰を守るように前に突き出た岩
   (Gendarme)
   フランス語では、憲兵の意味がある。
   主峰を守るかのように山稜上に立ちはだかる塔状の岩峰をいう。
   日本では奥穂高岳のジャンダルム、剣岳チンネのジャンダルム   が有名である。


<後 記>
  ★裏剣の仙人温泉小屋のHPに掲載するエッセイなのに、剣岳チンネのジャンダルムで無いことが、一抹の心残りである。
   その点は、読者の方々の寛大なお心に、お許しを乞うこととする。


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